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2020年10月12日 (月)

映画評論家 熊谷拓治氏の観劇評・・・

劇団やませ公演 ―70年の歴史を二日で―

木村靄村 生誕百二十年記念

『野の花のように』 熊谷 拓治

 郷土の先人を題材に創作活動を続けてきた劇団やませ。今回は木村靄村(きむら・あいそん)。彼は戦前戦後を通じてアララギの歌人として活躍。また、小中野に木村書店を開業。店頭の看板は斎藤茂吉の肉筆を写したもの。

 舞台は戦後間もない昭和22年の木村書店の事務所兼作業場。仙台からアララギの歌人、内和田忠男(小泉宜紀)を迎えて短歌会を開こうとしていた。驚くのは僅か二日間の話とした脚本。

 実は、私の実家は木村書店から徒歩三分。この頃の私は小学生。本が大好きで木村書店で毎日立ち読み。だが、オヤジさんは帳場でニコニコ。声もかけてくれた。スゴイ歌人だなんて思いもしなかった。

 やがて舞台に登場した靄村(佐々木功)にビックリ。素朴で無口で優しい風貌。昔のオヤジさんを彷彿とさせる。短歌の自慢話なんか一切なし。劇的な展開も感動的な苦闘談も無し。これでドラマになるのか?

 ところが脚本(佐々木功)が見事。書店の従業員河合千代子(大舘登美子・熱演)や山下はる子(清水麻知子)、高橋栄子(高森恵子)、短歌会の大澤熊五郎(村下直光)などの会話や噂話で靄村の才能や思いを浮かび上がらせる。更に、戦中戦後の状況から「あのなっすそさえてい」やお馴染みの地元の文化人の噂など。達者な演技者による落語風の洒落やビックリ、ギャグの面白さ。

 そして最後にお披露目される木村書店の看板の感動。この後、70年も生き続けている靄村の思いに涙。そして、70年の歴史を二日間にまとめた脚本と出演者の意欲にもう一度拍手した。

 市民情報伝言板「ふるさと通信」第281号より転載

劇団やませのホームページ http://yamase.mimoza.jp/

 

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